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ハートの欠片 No.1
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「とりあえず、イチから説明して欲しい」
十六夜がベッドの下から引っ張りだしたクッションに座りながら、あたしは口を開く。知りたいことはたくさんあるけれど、ひとつひとつ聞きたい。
「世界の成り立ちは邪羅さんが教えてくれた。物質と力と思念で作られていて、互いに関係し合ってるって。戦いの空間が、思念と力だけで作られてるってことも聞いた」
「おー、さっすが。仕事が早いねぇ」
十六夜は、ベッドに腰かけてこちらを見下ろす。ジュースをひと口含んで、あたしの出方を伺うように真っ直ぐ見てきた。
あたしも十六夜を真似てスポーツ飲料を飲む。泣き過ぎたせいか喉が渇いていて、いつもより優しい味だと思った。
「で? どこから話そうか」
背中を丸めて十六夜が問う。
どこからか聞くべきか。思考を巡らせたけれど、悩む必要がないほど辿り着く先はひとつだった。ハートより何よりも、知りたいこと。
「十六夜たちの正体から話して」
ベランダ、テーブル、あたし、と一直線になっていた体をベッドに向ける。目と鼻の先には十六夜の膝頭。彼はペットボトルの口を唇にあてたまま、しばらく考え込んでいた。
話すのを躊躇っているんだろうか。沈黙が訪れると不安に襲われたけれど、どうやら杞憂だったらしい。手のひらのキャップからあたしに視線を戻して言う。
「萱は、ユングっておっちゃんのこと知ってるか? カール・グスタフ・ユング」
「誰それ」
「学者だよ。知らないってことは、ユング心理学も知らない、よな」
目を点にして首をひねる。どこかで名前を聞いたような気もするけど、残念ながら一般高校生が学ぶ学問以外は触れた試しがない。
わからない、と素直に答えると十六夜はそっか、と短く返した。
「それじゃ……目の前で俺や魁が戦いはじめた時、どう思った?」
抽象的な質問。視線を泳がせ時間をかけてみたのに、質問の意図が掴めなくて困った。
「どうって言われても」
「単純な感想でいいんだ。目のあたりにした瞬間どんな風に感じたか、とか」
飲み物でもう一度喉を潤してから、そう遠くない記憶を呼び寄せる。単純な感想となると……。
「怖かった、かな。何が起きてるのか理解できなくて、凄く怖かった」
怠惰の瞳からも魁の剣からも、できれば逃げたかった。十六夜と邪羅さんがいてくれたからどうにかやり過ごせたものの、怖さだけはこの身にべっとりと染みついている。
「そうだよな。ごめんな、怖い思いさせて」
過去の情景を思い浮かべていたら、十六夜は肩を落とし出した。心底落ち込んでいるのが見て取れる表情なので、思わず手を振ってフォローする。
「いやいや、十六夜のせいじゃないでしょ」
「ううーん。まぁ、これからも怖い場面に出くわすだろうけど、俺がんばるからさ」
「あ……ありがとう」
「で、本題。その『怖い』って気持ちは世界の成り立ちからすると思念の領域に属するな?」
「え? そう……だね」
確か、生物の感情は思念の領域に関わっていると説明を受けたはず。こめかみに人差し指を押しつけて、なんとか思い出した。
「感情ってのは、一見すると脳だけで完結してるけど、その大元は思念の領域にある。人間の様々な気持ちは、目に見えない思念の領域で生まれて、そこから各精神に引き出されている。要するに、感情の根っこはみんな繋がっているんだ」
「う、うん」
「もちろん他人と感情が交わることはないけど、双子なんかは結びつきが強いから遠くにいる片割れの情報を第六感で感じ取るってこともある」
「どこかで聞いたことあるよ」
世界の不思議を追いかけるテレビ番組だったような。
「さっきユングについて聞いたのは、それ。ユング心理学でも人類共通の意識ってのが提唱されているから説明しやすかったんだけど……まぁ、いいや」
十六夜は、俯き状態で話すのがつらくなったのか、テーブルを挟んだ真向かいに座った。
「それで、同じタイミングで『怖い』って思う人がいれば、その分『怖い』って感情が思念の領域に同時に生まれることになる」
ジュースの残りを一気に飲んでから話を続ける。
「例えば、世界規模の戦争。そういう事象があれば、どうなると思う?」
「怖いって感情ばかりが思念の領域に生まれる、かな」
「そそ、大正解。思念の領域もこの世界も、恐怖で満ちるわけだ」
教科書でしか知らない世界が、現実に起こったとなると実際どうなるんだろう。あまり考えたくはない。
十六夜は空になったペットボトルをテーブルに置いて、そっと息をこぼした。
「そんなことになったら、世界は真っ逆さまだ。互いを壊して終わり。地球の終了。だけど、終わらせるわけにはいかない、よな?」
言い終えると、再び息をこぼした。十六夜は次のセリフを吟味するように口を閉じる。緊張しているのか表情が硬く、視線が少しばかり伏せられた。漂う空気が明らかに変わり、こちらも思わず身構える。
きっと十六夜の正体を話すつもりだ。昔のあたしじゃ、受け止めきれなかった事実。
一言一句漏らさないよう、背筋を伸ばして次の言葉を待った。やや不安げにあたしを見た十六夜は、覚悟を決めたのかごくりと唾を飲み込む。
そして、意を決して口にした内容は、想像の遥か上を行くものだった。
「世界の破滅を防ぐため――俺たちみたいなのが作られた。生物の感情を管理し、バランスを維持する者だ。理解しにくいかもしれないけど、俺や邪羅は、思念の領域で感情を管理している」
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