Long Story

光の欠片 No.22

 出会った当初は終わりを望んだのに、思い出がたくさん増えた花火の夜は終わりに脅えていた。丸く収まる道がほしくて、根本から目を背けた。そこからひずみが生まれてしまった。
 わかってたよ。本当は全部知ってた。ほしい未来へ届く道を必死に探したけれど探すふりをしてるだけってこと。猶予を先延ばしにしているだけってことに、とっくに気づいていた。
 空を仰ぐ。ずっと変わらない、いつも変わらない青空。まっすぐ見つめてからゆっくりひとつ数えて、掴んだ腕を手離した。
「ねぇ十六夜。あたしの願いは何だと思う?」
 俯いた顔を覗き込む。
 会った時から変わらない瞳。負の感情に支配されていた時だって透明度は高いままだった。
 あたしはこの目が好き。十六夜の素直な感情を映すこの目が大好き。
 だから、この目には喜びに満ちていてほしい。
「あたしも十六夜を守りたい。助けたい」
 そんな言葉が降ってくるなんて予想してなかったんだろう。十六夜は驚きながら自分を見つめてきた。不安そうに睫毛を揺らせて、続きを待っている。
 実を言うと……拘束をほどいた時、泣きそうだった。何もできないと思っていたのに、十六夜を助けられたのがあまりにも嬉しくて。
「もちろん戦い方は知らないから、十六夜への攻撃は防げないんだけど」
 だらりと垂れた両手を取った。握っていた杖は、いつの間にか消えていた。
 こうやって見つめ合えるのはとても貴重なんだろう。残された時間はわずかしかないんだから。
「ハートがあたしを守ってくれる。自分で自分を守ることができる。それって、十六夜の仕事を一緒に背負えるってことだよね」
 溢れる喜びを表現するには、どんな言葉を並び立てても足りない気がした。
 指が絡まる。
 言葉にできない分の想いが、指先から十六夜に流れることを祈って強く握った。
「お願い。十六夜を助けさせて。ひとりで抱えるつもりでいないで」
 一歩間違えると自分が死ぬ。
 死ぬのは恐い。どう考えたって恐い。でも、あたしの死を十六夜に味わわせるのは、もっと恐い。
 だから死なない。絶対に。
「十六夜の苦しみを、あたしに下さい」
 言い切ったあと、すっと言葉が抜けて気恥ずかしさが襲ってきた。
 その目を曇らせるものを取り除きたい。苦しみが瞳を濁らせるのなら、いっそ全部肩代わりしたい。そんな感情を織り込んだつもりが、何だかとんでもないことを口走っているように感じた。顔どころか体中あます事なく熱い。握ったままの指でさえ赤い。
 手に力が入っていない十六夜にかこつけて、そそくさと指を外すと、
「ありがとう。萱」
 力強い腕に抱きとめられた。
「ごめん、情けなかったな。俺」
「そんなこと」
「そんなことある。でも大丈夫。もう、迷わない」
 息苦しいほど強く抱きしめられているのに、耳元でささやく声は優しかった。泣き叫ぶような切羽詰まった十六夜は姿を消していて、すっかり落ち着きを取り戻していた。
 十六夜は背中にまわした腕をほどいて、こつんと額を合わせる。
「確かに俺は叡智だ。知を統括する者として理知的であるべきなのかもしれない。だけど今の俺は――蘇芳十六夜だ。『俺』の全てをかける理由は萱のため……それだけでいい」
 肩を掴んだ手から意志が伝わってくる。言葉の隅々に力が込もっているそれは、決意だと受け取れるような揺るぎないものだった。
「萱のためにここにきた。だから、改めて言わせてほしい」
 すぅ、と息を吸い込むと目を縁取る長い睫毛が揺れた。
「萱を守る。俺は萱のために生きたい」
 何だか寂しそうに、笑った。
 表情に違和感を覚えて一瞬首を傾げたけれど、言われたセリフが時間差で脳髄にやってきた。
 全てをかけると。あたしのために生きたいと。
 破壊力が大きすぎて体の力が抜けてしまう。自分が伝えた時以上の気恥ずかしさが訪れて、戦いの最中だというのにどうにかなりそうだった。
 嬉しいとか悲しいとか、そんな単純な感情へ落とし込むのが困難で、出所のわからない様々な想いが入り混じって気持ちを口にすることさえ陳腐だと思う。
 だけど、心の震えは信頼を確かに感じ取っていて。
 十六夜の力になれる喜びを覚えたばかりなのに、守ってもらえることに、やはり安心してしまった。
 身も心も託せる感覚。もし崖から飛び降りろと言われても、十六夜が下で構えてくれるなら迷うことなく飛べる。そう断言できる。
 彷徨っていたふたりの目的が、ようやく一点に定まった。

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