Long Story

光の欠片 No.24

 続く気配。
 脳に紛れる鬱屈としたノイズは、その犯人を示していた。
「十六夜、真上!」
「連携でもしてるのかよ!」
 十六夜は目標を定めないまま、銀の光を空に投げる。直後。光は黒い軌跡に砕かれた。
 頭上に広がるのは降雪に似た風景。太陽の光を乱反射する銀の輝きは、漆黒の剣によって散り散りになった。
 落下する速度に乗って、剣を振り回す魁。十六夜は間一髪で魁の剣を受け止める。
 黒髪が広がり冷ややかにあたしを一瞥した時、魁と十六夜に重なる人型の影に気付いた。その淵は赤い光で飾られ、次第に面積を増していった。
 空を見上げる。邪羅さんだ。
 太陽と邪羅さんの間に、燃えたぎる球体が出現していた。ひとつからふたつ、ふたつから四つと分裂しては彼の手の動きに合わせて踊り狂う。
 それを見た魁はすぐさま姿を消した。
「お前……さっきから俺の攻撃の真似しやがって。わざと似せてきてるだろ!」
「ご名答」
 響き渡る返事。
 球体は邪羅さんを基点にして、みるみるうちに増殖した。青空は覆われてしまい、まるで赤い絨毯を天に広げたかのよう。光を一切通さないらしく、辺りはたちまち暗くなる。足元の光が、何とか視界を保たせてくれた。
「しかも倍返し以上だな」
 視線を落とせば煌めく盤。空を仰げば球体の海。
 面と面で区切られた世界に閉じ込められている。
「受けるのが嫌だったら、ご自身でどうにかしてください」
「別に、俺自身はどうでもいいよ」
「ではこんなセリフはいかがでしょう……『惚れた女性くらい自分で守りなさい』」
 邪羅さんの合図と共に、全ての球体が螺旋を描いて急降下した。球体の隙間から太陽の光が再び顔を覗かせる。
 十六夜も動く。
 天に向かって杖を突き出すと、盤から金色を帯びたツタが一気に芽吹く。太陽を渇望するかのように身を伸ばし、次から次へと球体を粉砕する。
 勢いは一切衰えない。どんどん生えては、自分の視界を金に染め上げた。手の届く範囲はツタで阻まれ、見えるものといったら四角く区切られた空だけ。
 光のツタに密集したわずかな隙間から十六夜を探そうと首を傾けた矢先、ぎゅっと凝縮された静寂が訪れた。その直後、鼓膜を揺さぶる軽快な音が何kmも離れた場所から反響し合う。そして、眩しかった世界が一斉に晴れ渡り、元の色彩が戻り出した。
 残り香となる赤と金の輝きが舞い散ると、地面に辿り着く間もないまま儚く溶ける。そんな夢のような景色の中で、十六夜と邪羅さんが互いの武器を突きつけて対峙しているのに気づいた。
「萱の体に、もう傷は作らせないよ」
「ヒーローらしい、素晴らしい回答ですね」
「俺はお前じゃないからな」
 槍が、ぴくりと跳ねる。
「……何をおっしゃりたいんです?」
 不機嫌そうに切り返すと、邪羅さんはひとつ、口先でリズムを刻んだ。言葉にならないその音は十六夜の影に変化をもたらす。
 最初は小さな泡だった。動くはずのない影を揺らした直後、ぬるりと闇から這い出て十六夜の靴を捕らえる。子供の手によく似たそれは、幾本も生まれては次から次へと絡みつく。足首、ふくらはぎ、そして膝。すがりつくようにしがみつく。
 十六夜は空に退避したけれど、絡まりついた手の影は離れてくれなかった。根元は十六夜の影に付着したまま、腕だけゴムのように伸びて離れる気配を見せない。それどころか、足を掴みそこなった手の影も十六夜を執拗に追った。
 だけど、十六夜も負けてはいない。
 空中で急停止すると進路を変えた。十六夜は追ってきた手の影が左腕にまとわりついても、全く動じずに速度を上げる。
 向く先は……邪羅さん。
 杖が発光。銀の光は空から大地へ一直線に駆け、弾ける。邪羅さんは軽やかに攻撃を避けたけれど、影に縫いつけていた手の影までは気が回らなかったらしい。空から急降下した十六夜に根元を踏みつぶされて、手の影は細かく砕け散った。
 十六夜が再び邪羅さんを見据えると、彼の背中とあたしの間にもうひとつの影が生まれる。今度は人の手じゃない、本物の人間だった。
「魁……っ!」 
 魁は他の誰にも目をくれずに、剣を一回転。その圧が軌跡を描いて、あたしたち三人に襲いかかった。
 咄嗟に足を動かそうとしたら、
「そこから動くな!」
 十六夜が叫ぶ。その直後。
 目前まで迫った圧が見えない壁に阻まれて脆く崩れ去った。これはもしかしなくても。
「十六夜……いつのまに」
 ハートの挙動ではないので十六夜の仕業に違いない。近くにいなくても、守ってくれている。
 ありがとうと視線を投げた。遮るように立っていた魁の姿はすでに消えていた。
「で? あなたは何をおっしゃりたいんです」
 中断した話を再開しようと、邪羅さんが投げかける。向けられた槍の切っ先を見据えて、十六夜は口を開いた。
「撫子ねーさんのことについて、だ」
 場が硬直した。こんな場面で何を言うつもり?
 不可解な言動に、驚きを隠せなかった。
 邪羅さんは無言。十六夜に向けた槍をそっと降ろし、冷ややかな視線を投げつける。意味不明とでも言いた気だった。
「ねーさんの話をする前に違う話をしよう。おまえは自然の理<ことわり>を管轄してるな」
「それが何か」
「理は変わらない。お前が手を出さない限り、変わることがない」

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