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光の欠片 No.21
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そのすぐあとを辿ってひと筋の光が走った。邪羅さんだ。
「長い年月を費やして築き上げたものを、己の心情だけで排除するなど愚か者の行うことだ」
空中で器用に止まった魁が迫る槍を捕らえたけれど、スピードの乗った槍に剣が弾かれる。邪羅さんはさらに追い打ちをかけた。
「――虫酸が走るんだよ。どいつもこいつも」
聞いたことがないような低音を吐く邪羅さん。槍が夏の青空をまっすぐに薙いだ。
「ハートは渡しません。どんな手段であっても在るべき姿へ戻します。必ず」
渾身の力を込めているだろう打ち合いが繰り広げられる。魁のほうが強かったはず。それなのに、互角の勝負が行われていた。
魁が強くなったのか、邪羅さんの性格に変化があったからなのか。手数が増していく戦いを眺めていたけれど、ほぼ同時に体が虚空へと消えた。争う音が方向も見当つかないような遠い場所から届く。
辺りが一瞬にして静かになった。軽く歩いてみる。耳をすまさなくても、自分の足音が聞こえてきた。そして、その中にうめき声が混ざっていることに気がつく。
切羽詰まった状況だったとはいえ、その音に気づけなかったことに血の気が引いた。
振り返ると声の主と視線が交わる。
「十六夜!」
十六夜は赤く光る縄でがんじがらめにされていた。記憶を辿る。
腕が襲ってくる前、邪羅さんは赤い光を放っていた。もしかしたら、十六夜を拘束していたのかもしれない。
駆け寄って確認する。赤い縄は手首や足首、首まで縛りつけていた。肌に食い込んでいる。胸が痛い。
急いでそれに手にかけた。まずは首の紐。自分でも解けるのか不安だったけれど、思いのほかあっさりと崩れた。
「ひどい……」
首に残る縄の痕は、くっきりと浮き上がっていた。そのせいか、十六夜はずっとうなされている。抵抗らしい抵抗を見せないので、意識を失いかけているんだろう。
争いの音に注意を払いつつ急いで手首の拘束に手を伸ばす。強引に引きちぎると、勢い余った指が十六夜の腕に触れた。
「……萱」
細い声があたしを呼ぶ。
「十六夜動かないで。まだ足が残ってるから」
顔をしかめて起き上がろうとする十六夜の肩を、地面に押さえつける。足首に食い込んだ縄に手をかけると、制したにもかかわらず十六夜は上体を起こした。
額に手を当て考え込んでいたけれど全ての縄から解放された直後、何かを思い出したように慌ててあたしの頬を触りはじめた。
「ケガは! 大丈夫なのか!?」
青ざめた顔で全身を確認している。それらしい傷がどこにもない事を確認すると、安心したように長い溜め息をついた。
「無事なんだな。良かった」
表情を緩めたのも束の間。状況がつかめていないのか、厳しい目つきで辺りを伺っていた。
「ハートが助けてくれたの。あと……魁がきた」
「え?」
「魁は助けてくれたんじゃなくて、邪羅さんを妨害しにきたんだと思うけどね」
ハートのこと。邪羅さんのこと。
十六夜が知らない間のことを手短かに説明した。
彼のことだ、あたしが危険な目にあったと聞いたら落ち込むことが予想された。だけど、この期に及んで知らないことがあってはいけないと思い、目にしたことを全て話した。
案の定、複雑な面持ちで肩を落とす。
「俺はまた……萱を助けられなかったのか」
「十六夜、あのね」
思わず口を挟んだ。でも十六夜は目の前に手を広げて遮る。
「俺は自分が許せない。これで一体何度目だ?」
顔を歪めて立ち上がろうとするけれど、足枷のダメージが残っているのか、体をよろけさせた。
「何度恐い思いをさせた? 俺たちの都合で巻き込まれているだけなのに、何度命を落としかけた?」
浮いた腕を掴んで体を支えた。見た目が全然変わっていなくても、体がボロボロなのは一目瞭然だった。それにもかかわらず杖を離さない。離してしまうと自分自身への矜持が保てないかのように、固く握りしめる。
この場に巻き込んだのは自分だ。邪羅さんを元に戻すために、それだけのためにここにきた。つまり、十六夜を痛めつける原因はあたしにも存在する。責めるならあたしを責めてほしい。味方同士で傷つけ合うような戦いに赴いてほしくない。
十六夜は目で見えないほど遠くで繰り広げられる争いに向かって、よろめきながらも歩く。その腕を引いて、必死に止めようとすると、
「平気だから!」
全く想像していなかった、きつい口調が返ってきた。
鼻筋の整った顔はひどく強ばり、怒りと後悔がありありと現れていた。揺れる瞳が睨んでくるけれど、誰を睨んでいるのだろう。少なくとも、あたしではなかった。睨む先は確かにあたしだったけれど、睨んでいる相手は明らかに違っていた。
次のセリフで対象が誰なのか、はっきり理解できたけど。
「平気だから……頼む、無理させてくれ」
十六夜は、あたしを通して十六夜自身を責めている。
あたしを助けられなかったという理由で気に病む必要はない。状況に溺れてばかりの自分が引き金を引いたんだ。非はこちらにある。それに、結果的ではあるけれどこうして無傷なのだから、十六夜が自分を責める必要なんて微塵もない。否定する要素ばかりだ。
それなのに十六夜は一層顔を歪めて、自分を傷つけるような言葉を続ける。
「萱を守りたいんだ。俺の仕事も願いも、そこにあるから」
絞り出す声は、邪羅さんに突きつけられた使命を告げる。
改めて問われた、ここにきた理由。そして、ここにいる理由。
目的は何ひとつ変わらないのに、口に出す十六夜はとても苦しそうだった。
それは、自分たちの気持ちが変わってしまったからだ。目的も存在理由も不変なのに自分たちが変わった。
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