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光の欠片 No.26
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十六夜を倒すのが目的なら、叩き落とす必要なんてない。槍で刺せばいい。
槍から変化した大きな手もそうだ。あたしを狙うのなら、わざわざそんなことをする必要なんてない。魁をおびき出すことが目的だとすれば合点はいくけれど、遠回りしすぎじゃないか。
たくさんのシーンを頭で巻き戻してようやく、奇妙なことに気づく。それは、あまりにも遅い気づきだった。
魁が――いない。
邪羅さんを見る。彼は謀ったように視線を重ねると、不適な笑みを浮かべて槍を消す。
難解で複雑な迷路でゴールが見えた。しかも、あたしの望まない形へ。
「だ……め」
呟くと同時。駆けた。
嫌な汗が頬を伝う。
足がもつれても留まるわけにいかなかった。このままだと……!
「十六夜だめ! 邪羅さんから離れて!」
走りながら絶叫する。振り向く十六夜と目があった。
「逃げて! 邪羅さんの罠!」
狙いは十六夜だ。そして、十六夜をもう一度闇に陥れる気だ。でないと魁をおびき寄せる理由がない。
十六夜がマイナスの感情に支配された記憶が一気に蘇る。吐き気のする現実を受け入れるしかできなかった、一番嫌な想い出。
「それだけはやめて! 十六夜を巻き込まないで!」
自分の行動は十六夜を困らせる。そんなことわかっていた。学習しないと言われても仕方がないけれど、どうにも止まらなかった。あんな想いをさせるなんて、絶対に嫌。
悪い予感に埋め尽くされていたあたしは、十六夜の元に辿り着いた瞬間、思い切り突き飛ばした。
「萱!?」
地面に倒れ込む音がする。ケガしたかもしれない。でも、無事だったらそれでいい。
十六夜に向かって突き出した腕を、そのまま邪羅さんへ向けようとした矢先。自分の浅はかさを、改めて知ることになる。
「――いらっしゃい。お待ちしていましたよ」
執念の混じった、笑み。
見間違いかと思った。瞬きして、固く目を閉じる。
開ける。
見間違いじゃ、なかった。
あたしの手首には、しっかりと握りしめる邪羅さんの腕があった。
「もう少しで正解だったんですけどね、萱さん。僕が誰なのか……お忘れじゃないですか」
逃げようにも逃げられない。腕を引き抜こうとしても、全く動けない。
加速して行く心音が鼓膜の側まで広がる。明瞭に聞き取れる音はあたしの意識をまっさかさまに落とそうとするけれど、何とか踏みとどまった。
だけど、おぼろげに混じっているものを感じ取った時、全てを理解した。
――残響に似た、ノイズ。
「罠は……罠の対象は」
震える声で呟いたけれど、先を続けることができなかった。手首を離さない邪羅さんの腕から色が抜け出したから。瞬くごとにひとつの色が失われて、明暗だけが物の区別をつけられる手立てになった。世界から色という色が欠け、鮮やかな空までもが灰色へと彩度を落とす。境界線がどんどん曖昧になると、さらに懐かしい記憶に心が揺さぶられた。
夏休みに入る前、この公園で邪羅さんとハートの中に潜った。虚ろな十六夜に吸い込まれたあの日と、良く似ている。
いや、そんな次元じゃない……まるで同じ。
世界から自分が取り除かれる感触。目の前の身体と中身がちぐはぐな感覚。
「罠の対象は――あたしなの? 魁」
呼びかけた直後。
意識はずるりと滑り落ちた。
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