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光の欠片 No.29
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「創造したものを破壊し、秩序を乱して混乱させ、愛するあまり嫌悪する。光明に打ち拉がれては暗黒に救いを求め、高雅を吐き捨てて卑俗になる。全てを循環することがつまり、永らえるということ」
悟りと嘆きが折り重なる話し方は、じんわりと足に重みを与える。白い海の上で星くずをかき分けているのに、足が捕われる。
ふわりとした光の花を掴むように進んだ。どうしても、そこに行きたい。そして知りたい。
「嫌なものがなくなってしまえば、感情は意味を持たずに、悠久の時を巡るのみ。私たちの存在も、意味を成さなくなるでしょう」
この場所は。あたしに見えているものは。
「ほら、やっぱりハートは」
この魁は。
「あなたが必要だということ。私も人と同じなのです」
この声の主は。
ぽつりぽつりと交わされる会話。ふたりの外に存在するあたしは、疑問を浮かべて突き進む。胸の苦しみはどうでも良くなっていた。
少し近づいた幼い声が、さらに話を続ける。
「ハートは、嫌なものを抱えてどんな気持ちになるの」
「強いて言うなら狂おしい、かしら」
「狂おしい?」
「ええ。大切なものです。だからお願い、育ませて。あなたに存在する嫌なものも良いものも、私が分かち合った。あなたは私の半身で、祈り。だから共に……共に生きましょう」
『生きる』
命が存在しない場所に不釣り合いな言葉を聞いた瞬間、正面に捉えていた魁が消失した。頭上に広がる果てしない闇と白い海はそのままで、光の花と魁の姿だけが消えた。ひとり取り残されて呆然としていると、押し殺したような泣き声が耳に入る。さっきまで聞いていた幼い声だ。魁が、泣いている。
ぞわりと鳥肌が立った。
心の拠り所がほしくなって、呼吸をわざと荒くした。道なき道を正面に見据えて歩く。踏むたびに足の裏を押し戻す柔らかな感触が伝わってきた。
魁が消失した時、白い海から気配が消えた。自分が混ざっているとまで感じたのに、今は誰もいないと答えられる。濃淡のない白と黒は、ただの色分けになってしまった。行けども行けども同じ景色で、声に近づけているのかさえわからなかったけれど。
「……ここってこんなに暗かったんだね」
泣き声に混じる小さなつぶやきが聞こえた。
「ハートがいたから明るかったのかな。それとも花が咲かなくなったからかな」
足を止めて耳を澄ませる。
「どっちでもいいか……もう、いなくなっちゃったんだし」
右手の奥から声がする。
足の向きを変えて静かに歩いた。呼吸を抑えて慎重に進む。
「ハートは、嫌なものが大切だって言ってた。でも本当にそうだったのかな」
言葉が不安で満たされている。己を否定することしかできない儚さ。相手がセリフを肯定してやっと自分を認められるような問いかけ。
この子は今、どこか遠い場所を見つめているんじゃないか。手の届かない場所を見つめて問いかけているんじゃないか。何故だかそう思った。筒抜けとは言わなくても、どんな様子なのか、どんな気持ちなのかが、簡単に脳裏をよぎった。
案の定、予感はあっさり的中する。行く先で、魁が頭上に広がる闇を眺めていた。
前髪が目を覆っていて表情が読み取れない。涙の筋がないので泣いていないことはわかるけれど、力の抜けた体からは痛々しい喪失感が漂っていた。
「……ねぇ、ハート。どうして、ひとりで人間のところに行っちゃったの」
気が遠くなるような無限の狭間で、ぽつりぽつりと気持ちが吐露される。戻らないことを知っているのに、戻ってくると信じ続けているような子供。これが、等身大の魁。ハートの半身。
間違いない。
魁が話していた相手。あたしの声だと錯覚したあの声の主は……ハートだ。
そしてここは恐らく。
「……ねぇ、ハート。どうして、嫌なもの全部を僕に置いていったの」
問いかけを全身に受け止めながら魁と向かい合う。怖くはなかった。この子は大丈夫だから、震えることなく腕を伸ばせた。
魁は気づかない。気づけるわけがない。だってふたりは今、同じ軸に存在していない。
「……ねぇ、ハート。やっぱり、嫌なものはいらないものだったのかな」
希望が失われた言葉と同時、あたしの指が魁に届き——体をすり抜けた。
やっぱり、ね。引っ込めた手の平を見つめて、呟いた。
魁の雰囲気、話している内容、ハートが存在していたこと。これらを照合すれば、示す事実はひとつだけ。
「僕は……いらないものだったのかな」
ここは、魁の記憶の中だ。
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