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真実の欠片 No.14
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軽く笑って手を振り、平気だと主張すると制服の破れが目に入る。
「それって」
破れたものでなく、明らかに刃物で斬られた綺麗な切り口。服の形を保つのがぎりぎりなほどひどい有様だ。赤い染みが見当たらないのは、体へのダメージがないってことだろう。
一体誰が彼にこんなことをしたのか。
犯人が誰なのか、推測するのは容易い。邪羅さんは怠惰が仕掛けてきた矢先に、あの人を追いかけていったのだから。
「魁にやられたの?」
「ええ」
彼はばつが悪そうに微笑むけれど、気は抜いていなさそうだ。槍を持つ手に筋が浮き立ち、いつでも動かせるように力が込もっている。
……魁を探している。
服の跡を見ると、魁の強さが手に取るようにわかった。十六夜も受け止めるだけで精一杯だったのだから、邪羅さんが無傷で立っているのって奇跡なんじゃないだろうか。
黒い髪と黒い瞳を脳裏に思い浮かべる。
魁がそばにいるだけで、神経をなぞるような居心地の悪い感覚が走る。肌が何も反応を示さないことから考えると今は恐らく。
「近くにいないよ。あの人」
十六夜より少し低い視線と目をあわせて言う。聞き届けた邪羅さんは、眉を跳ねさせて驚いた。
「魁がどこにいるのか、わかるんですか?」
「邪羅さんにはわからないの?」
その様子に、逆にこちらが面食らう。
「怠惰とかはわかるんですけど、魁の居場所はわかりませんね」
手をあごに押し当て瞳をさまよわせたあと、考え込むように視点を固定させている。
しばらくして、何か引っかかったらしい。ぶつぶつと呟きながら自問自答しはじめた。
何だろう、と顔を覗き込もうとすると……例の気配がした。
場所は、あたしの背後。
首筋に冷たい空気を感じて反射的にしゃがむ。途端、頭の上から風を薙ぐ音と金属同士が噛みあう音が鳴り響く。
あたしは足の隙間を必死にすり抜け、邪羅さんの背後に逃げた。
槍を突き出す邪羅さんに対峙するのは……魁。あの人だ。
無表情のまま漆黒の瞳を揺らし、あたしと邪羅さんを交互に見比べる。
「良く避けました。あと数秒遅れてたら首が飛んでましたよ」
邪羅さんが先の分かれた槍で剣を捕らえたまま、至って冷静に褒めた。
確かに数秒でも遅れていたら、文字通り首が飛んでいたことだろう。嫌な汗が背中に流れた。
「さて……あなたがハートを狙う根拠を聞かせていただきましょうか!」
剣を押し退けると、魁は数歩後退して距離を取った。邪羅さんは間髪入れずに魁を追いかける。
身長を遥かに越した槍をいとも簡単に操る邪羅さん。踏み込みと同時に魁へ激しく打ちつけると、魁の髪がはらりと散った。
魁も見ているだけじゃない。犠牲になった髪を剣で吹き飛ばし、邪羅さんの肩を狙う。
「全く、本当にお強いですね」
紙一重で邪羅さんは避ける。ところが、魁は一枚上手だった。剣はさらに加速して翻り、邪羅さんの急所をピンポイントで狙う。
黒い弧を描く残像が空間に残された。
「一体何が目的なんです。こんな回りくどいことをして何の得が……!」
剣を受けながらも、無言の相手に語りかける邪羅さん。
槍が受け、返し、踏み込んで貫く。
剣が遮り、掬い、斬り上げると枝分かれした槍が刃に噛みついた。
互いに一歩も譲らないせめぎ合い。ぶつかるごとに加速していき、次第に動作と音圧にズレが生じはじめた。目が全然追いつけない。
剣と槍の長さから、距離があると有利なのは槍のほうだ。接近しすぎるとその長さが仇となるらしい。邪羅さんはできる限り離れようとするけれど、魁は隙を与えてくれない。瞬く間に間合いを詰めて剣を繰り出す。
邪羅さんの体へかすった剣が制服を切り刻むと、左腕の一部がはだけた。白い生肌がむき出しになり、真横に引き裂かれた皮膚が鮮やかに浮かび上がる。
「邪羅さん!」
助けることなんてできもしないのに、あたしは手を伸ばした。
当然ながら彼に届くわけがない。指先の向こうで、邪羅さんの懐に踏み込んだ魁が剣を流すのを眺めるだけだった。
槍で剣を受け流しても、それは致命傷を避けるのみ。受けきれなかった攻撃は遠慮なく邪羅さんを傷つけていく。腕も足もズタズタになり、あたしは目を背けてしまった。
彼らが傷だらけになってまで何を守ろうとしているのか。考えるまでもなく、散々出てきたキーワードが脳裏をかすめる。
「……ハート」
彼らの気迫に気圧されて、あたしはのろのろと後退した。震える手のひらを固く握り、針の群れを粉砕した不思議な力を思い出す。
あたしを守ってくれた力。十六夜の時も針の時も、あたしに危害が加わりそうな時に働いた『拒絶』の力。
「ハートって一体……」
今ここがどんな場所かも忘れ、数少ない情報をかき集め出した、その時。
目の端に妖しく揺らめく影が映る。光の玉だ。
あたしに向かって真っ直ぐ流れる。咄嗟の判断で飛び退くと同時に着弾――爆発。
針状の輝きが飛び散り、その内の一本が左腕を擦り抜けた。
「……!」
鋭い痛みが左腕から走る。恐る恐る左腕を見ると、手首付近から血が流れていた。
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