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光の欠片 No.13
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「あたしが聞きたかったのは、理由だけよ」
「理由、ですか」
……邪羅さんはわかっているはず。撫子が何を示しているのか、何を話そうとしているのか。聡明な邪羅さんなら絶対わかるのに、動じる様子を微塵も見せない。
撫子は肩から下げたバッグの紐をぎゅっと握った。それは隣に立つあたしへ、皮の締まる音が届くほど強いものだった。
「どうしてあんなことしたの? わけがあるんじゃないの」
取り巻く雰囲気と裏腹な、鳥の鳴き声が爽やかに響き渡る。羽ばたきに耳を覆いたくなった。ずっと後ろで流れ続ける噴水の音でさえも、場違いだと感じた。
重苦しい沈黙。いつまで続くのかと小さな呼吸を繰り返していたら、邪羅さんは突然あたしたちに背を向け、
「それを知ってどうなさるのですか」
横顔で呟いた。
……撫子が理由だけを求める、その理由がどうしてもわからなかった。
自分をボロボロにした相手を責め立てるならまだしも、彼女はそれをしない。口にすることで当時の光景が蘇るから、という話であれば理解できる。
でも、違う。撫子の瞳はどれだけ傷ついても真っ向から邪羅さんを見つめ続ける。
知りたいと。ただそれだけのために。
理由が撫子の中でかなり重要な役割を持っている。たぶん、邪羅さんも撫子が原因に固執していることを認識している。
だからこそ口を挟ませないように、畳み込みにきたんだ。たったひと言の素っ気ない単語で。
「あなたが知ったところで、無意味なことです」
短く、鋭く、ばさりと切り捨てる。
シンプルだからこそ冷たさが際立った。これ以上撫子を突き落とすセリフなんて、この世に存在しないだろう。
呆然とした表情が彼女の顔に張りついている。返事は、ない。
恐怖に打ち勝とうとしているのに、その行動が無意味だと蹴り飛ばされた。そんなのって……そんなのって!
「いいかげんにしてよ、邪羅さん」
耐えられなかった。
撫子の決意したことだから、邪魔しないでいようと思った。口を挟むようなことはしたくなかった。
だけど、目の前で撫子の思いが踏みにじられていくのを、黙って見ていられなかった。
「会うのも怖いはずなのに、あたしに嘘ついてまでここにきたんだよ。なのに、無意味? そんなはずないでしょ!」
我を忘れて食ってかかる。ところが、腕を出して制したのはこの場で最も苦しんでいる、当の彼女。
「大丈夫だから。萱」
「……撫子」
理由がないなんて、知りたくなかっただろうに。
無惨な事実なんて、知りたくなかっただろうに。
それでも彼女はあたしの腕を引いて、邪羅さんの前に踏み出る。涙を見せないどころか、背筋を伸ばして凛と立つ。
そして、
「逃げたいの?」
短くそう言った。
邪羅さんがゆっくりとした動作で振り返った。感情の起伏を一切見せなかったのに、撫子のセリフを受けてはじめて、不快そうに眉をひそめた。びきりと空気の固まる音がする。
指を動かしただけで刃に襲われそうな緊迫した雰囲気。視線は絡まないのに、体がすくみ上がる。怖い――それ以上の感想を持ち得なかった。
撫子はひるまない。淀んだ邪羅さんの瞳とは反対に、撫子は輝きを増す。磨き抜かれた鏡のようで、その目を通せば現実がありのまま見られそうな気がした。
揺らぐ邪羅さん。唇を僅かに動かしたけれど、先に声を発したのは彼じゃなかった。
「逃げていいのはあたしだけ。アンタに立ち去る権利なんか、あるわけないじゃない」
真っ先に目をそらすべき人が真実を探そうとしている。
彼女が逃げない限り誰もここから逃れられない。そんなこと許されるはずがない。
撫子から漏れるのは、閉じ込められた本物を鷲掴みするような、そんな気迫。
受けとめるのが邪羅さんじゃなかったら、冷や汗どころじゃないだろう。キレ長の目が一層細くなった。
「賢明な方だと思っていましたが、どうやら過大評価したようです」
「過大評価?」
「あなたには情報を得る自由があります。ただし、知ってからでは遅い事象だってあることをご存知でしょう」
脅しかけるような口調なのに、撫子はびたりとも動かない。
「アンタの話す内容にどんな価値をつけようとあたしの勝手。そう思わない?」
わかりきったことを確認するな、とでも言いたげに鼻を鳴らす。
今の彼女に何を言っても無駄だと判断したのか、邪羅さんは反論もせずに黙り込む。
返答がないのを確認した撫子は、肩にかけていたカバンから何か取り出し、邪羅さんに突きつけた。
普通なら、それが何なのかわからないはず。
だけど、自分にとっては見慣れたものだったから、ひと目見てピンときた。
「あたしの髪よ」
そう。それは紛れもなく撫子の髪だった。
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