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光の欠片 No.8
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「そっか」
受け流す言葉でしか返事できなかった。
器用に立ち回れないのが悔しい。喉の奥がどんどん苦くなる。
そんな自分に気づかれたくなくて、目を合わさないように隣の席へ視線を移した。そこにはカップルふたり組と思われる女の子と男の子の四人が座っていた。夏の計画でも立てているのか、雑誌を囲んで生き生きとした笑い声をあげる。
「やっぱ海は押さえないとダメじゃない?」
「お前車出せよ」
「キャンプも良くない? バーベキューとかさ」
「ヤダー! 虫にかまれるし!」
雑誌を交互にひっつっかみ、周りにも丸聞こえな音量で話していた。
隣との隙間は人ひとりがやっと通れるくらいの狭さ。そんな距離なのに、片方は盛り上がりを加速させ、片方は途中から会話がない。
他人の笑い声に耳が反応する。いつもなら気にするなんてありえないのに。恨めしそうに眺めていることにやっと気づいて、我に返った。
あたし、何やってんだろう。
泳ぐ視線を仕方なくアイスへ戻す。カップからは水滴が垂れてアイスも溶けはじめていた。柔らかくなった部分をすくい、まだ味わっていない緑鮮やかなアイスを口にした時だった。
隣から、あたしを崩しかねない言葉が放たれる。
本来なら楽しい光景が浮かぶはずの、言葉が。
「やっぱさー、花火行こーよー! 花火見なきゃ、夏は終われないでしょ」
ぐさりと、刺さった。
ふわりと抹茶が香ると同時、顔にかぶって目に染みた、火薬の匂いが蘇る。
途端、アイスに重なって見えたのは、青々とした河川敷の芝生と大きく広げた遠足シート。あっという間に傾く太陽。空になるペースの早い食べ物たち。
そして、手で触れられそうなくらい間近に迫る花火。
コマ送りに浮かんでは消える映像を止めようと、アイスを次々と口に放り込む。だけど、無駄な抵抗だと嘲笑うように頭の痛みが強まるだけで、広がる光景を止めることはできなかった。
何気ないひと言から生まれた話。高校生を満喫したいという、雑談から生まれた遊ぶ計画だった。
楽しかった。すごく楽しかった。
三人じゃ無理だった。四人だったから楽しかった。なかった事になんてしたくない。
記憶を消してと伝えれば全てが解決するのに、それをためらうのは自分のエゴに違いない。花火の思い出を、あたしと撫子とで共有したいんだ。撫子はあんなに苦しんでいるのに。
全部自分都合。全部自分の為。
あたし……汚い。
スプーンをくわえたままぼんやりと考えていたら、カップに被さってきた何かが目に映る。それが骨張った手だと理解した時には、すでに遅く。声に出す前に、オレンジの塊が視界から消えていった。
「ちょっと!」
あたしの喉を通るはずだったアイスが、雫を滴らせながら十六夜の口へ滑り落ちる。流れるような手つきで、遠慮が一切感じられなかった。
「ん?」
「『ん?』じゃない、あたしのアイス!」
「ごちそうさまでした」
手を合わせる十六夜を横目に、あたしは諦めの溜め息をついた。
「コーンでよかったらあげるぞ?」
「いりません」
視線を落とすと、半分になったオレンジとグリーンティのアイスが形を崩して混ざっていた。練り込んでマーブル模様を作っていると、コーンにかじりついた十六夜が話を切り出した。
「俺、花火楽しかったよ。思っていた以上にな」
「え?」
聞き逃したわけじゃなかったけれど、咄嗟に聞き返してしまった。『花火』って単語に反応したの、まさか気づいてた?
「花火がどういうものかっていう知識はあったけど、目で見るのははじめてだからな」
「うん」
「萱もねーさんも楽しんでくれたみたいだし。行って良かったと思っている」
十六夜は一体、何を言いたいんだろう。ポツポツと話すその目は、ただただ優しい。
「何があったかまだわからないけど、できれば記憶に手出しをしたくない。これは本当に本当」
喧噪に満たされた店内。騒がしさに飲まれた自分。あたしたちだけ空間から切り取ったような静かな空気が重くて、情けなくて。
沈んだ気持ちを吹き飛ばそう、普通に振る舞おうとしたけど、やっぱりだめだった。
だけど。
「だから俺」
「十六夜」
十六夜の話へ無理に割り込む。
いくらあたしがだめでも、その先を十六夜に言わせたくなかった。言わせるのは、卑怯だと思った。
十六夜はあたしの本心を汲もうとする。そしてこの優しい人は、さも自分の意見のように告げるんだろう。それはさせちゃいけない。
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