Long Story

ハートの欠片 No.14

「二次会やんね?」
 そう言って、こちらにズカズカと寄ってきては、大きなかばんを隣のベンチに置いた。
「二次会?」
 一体どういうことだろう。こんな夜遅くに遊びに行くつもり?
 かばんを探る十六夜をぼんやり眺めていると、
「ジャジャーン!」
 古くさい効果音をつけ、なんと花火セットを取り出した。しかも、手持ち花火のみのタイプじゃなく、何種類も詰まっているバケツサイズ。
「花火の二次会は、やっぱ花火でしょ! やりたかったんだよな、実は」
 花火セットをベンチの背にもたせかけると、満面の笑みでチャッカマンを握りしめる。ピストルみたいに持ち、バーン! とか言って、あたしを撃つふりをした。火力が最大なのか、噴出する火の勢いが強い。
「な、準備万端だろ? あとは水だけだけど、噴水に溜まってるやつ使えばいいし」
 顔の真横で軽快な音を立て、着火と消火を繰り返す。その表情は、はじめてもいないのに満足そう。
 本当、どうしようもないなぁ。暗闇に包まれているのを良いことに、口元を思いきり緩ませる。
「うん! やろうやろう!」
 お腹の底から明るい感情が湧き出た。とん、と地面を蹴ると夜空にまで昇ってしまいそうで、くすぐったい。疲れなんて一気に吹き飛び、今すぐはじめたくて駆け寄った。
 ふたりとも自分が先だとばかりに、頭を突きあわせて中身を物色する。どの花火が良いか吟味していると、十六夜は噴き出しタイプを等間隔に並べはじめた。
「ちょっと、何やってんの?」
「へ? いや、どんなんかなと思って」
「それは一気にやる花火じゃないよ」
 チャッカマンをしつこいくらいカチカチ言わせている十六夜に文句を言うと、ぴたりと置くのをやめた。
「そんなもん?」
「うん。メリハリ効かせないとね」
「ふーん」
 花火を放置して戻ってきた十六夜に、持っていた手持ち花火を渡す。相当気に入ったらしいチャッカマンを無理矢理剥ぎ取り、手持ち花火の持ち方を教えて、花火に火をつけた。着火用の紙が燃えきらないうちに火薬に引火。花火大会のものには敵わないけど、それはそれは綺麗な火花が散って足元へ流れ落ちる。
 さっきまで暗かったのに、顔や体の輪郭が花火の光で一瞬にして暗闇に浮かんだ。
「すげぇ、おもしろいな」
「ちょっとジッとしててね」
 あたしは自分の分を握りしめ、先端を十六夜の花火に近づける。ボウ、と良い音を立てて光が二倍の量に膨れた。
「へぇ、そうやって繰り返していくわけね」
「その方が楽でしょ?」
 ビー玉みたいな透き通った瞳に、ゆらゆらとした火花が映り込む。
 光が落ちる光景が面白いらしい。花火を動かして残像を作る、その表情は真剣そのものだった。花火に負けないキラキラとした表情は、小学校にも上がっていない男の子っぽい。十六夜を知れば知るほど、嘘偽りない無邪気さに心がほぐされた。
 新しい表情がもっと見たくなる。少しだけ悪戯心が芽生えた。
「うりゃ!」
 十六夜の持つ花火が燃えきったと同時、手元寸前に火花を近づける。彼は驚きを声に乗せて、理想通りに飛び退いてくれた。
「怖っ!」
「油断禁物だよ! 花火は戦いにもなるからね!」
 花火を振り回して熱弁した。
 ここまで言ったなら、十六夜は何かを使って仕返しにくるだろう。ねずみ花火を使うのか、それとも違うものか。思案する十六夜を想像しているだけで笑いが込み上げてくる。口の隙間からふふ、と笑みが溢れると、
「ふんっだ」
 拗ねたように花火を物色しはじめた。全て手のひらサイズのものを掴んでいるので、あたしの考えは大正解らしい。もう一度笑みが溢れると、手元から光が消えた。
 ――その後。足元にネズミ花火を仕掛けにきたんだけど、冷静に離れたあたしを見たからか、彼は楽しむことに専念していた。メリハリを正しく理解した十六夜は、ほどよいタイミングで噴き出し花火から光を舞い上がらせる。危ないよ、と注意してもふざけて近寄り、火薬以外の焦げ臭い香りを漂わせた。
 花火を振り回して空中に大きな円を作ったり、ネズミ花火をいつまで持ち続けられるかの競争をしたり。笑い声が混ざり合う穏やかな時間に流され、花火はあっとういう間になくなった。
 残ったのは、線香花火が十本。その半分を十六夜に渡す。
 噴出し花火の残骸から、少しだけ紙を破って火をつけた。コンクリートの地面に置いて、近くに腰を落とす。

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